少し前に書いた“好きなことを続ける”にもつながる話で、今日は過去の仕事を紹介をしたいと思います。
思い返せば、子供の頃、母親の化粧品をみてアイラッシュカーラーってなんて不思議な形なんだろうと思っていました。世の中で他の何者にも似てない、すごくユニークな形だと思いませんか。だけど、様々あるアイラッシュカーラーを並べてみると、どのブランドでもほとんど同じような形をしている。 きっと、まつげをカールさせるという機能一点だけがシンプルにそのまま形になった商品なのだと思います。
資生堂に入社して再び出会ってからも気になる存在ではあり続けましたが、アイラッシュカーラーはマーケティング投資をして広告をするような商品ではないので、仕事として向き合うチャンスはなかなかありませんでした。
ですが、これは待っていても仕方がないと思い、同僚のフォトグラファーと自主的に制作をして、そのあとマーケティング側に売り込んでいくという計画を立てました。
ビジュアルを作る上で色々と調べていくと、資生堂のアイラッシュカーラーは、手の持ちやすさ、まつげを挟みやすい曲線、ヒンジ(接合部分)の柔らかさ、すべてにおいて人間工学的に設計されていて、口コミの評価がすごく高い。しかしながら、一見は他社のアイラッシュカーラーと違いが見えにくく、同質化してしまっているという課題も見えました。
そこで僕は、このプロダクトが密かに持つ“造形的な美しさ”をダイナミックに写真に捉えて表現したいと思いました。他社と差別化を図るためには、今までとは違う視点でこの商品を捉え直す。仕上がりのまつげではなく、あえて商品自体の造形を主役にすることで、“構造の美しさ=使い勝手の良さ”と“美しいまつげの仕上がり”を同時に連想させるのではないかと考えたからです。
競合他社も含めて一般的なアイラッシュカーラーの広告は、まつげを使ったビジュアルが主流なので、アイラッシュカーラーだけで商品の魅力を伝えることの難しさも大いにありましたが、商品とじっくり向き合うことで新たに気がつくことができた表現や美しさがあり、最終的には今までにない新しいアイラッシュカーラーの広告になったのではないかと思います。
そんな思いで作ったこのポスターは、2019年にポーランドのポズナン国立美術館のオフィシャルコレクションとして収蔵してもうらことになりました。
興味があってずっと気になっていた→その思いと向き合ってみた→思い切って作り始めた→壁にぶつかる→乗り越える→広告として使ってもらった→それがアート作品として美術館に収蔵してもらう
こんな展開になるとは思っても見ませんでしたし、他にもニューヨークのADC(アートディレクターズクラブ)という100年の歴史がある広告・デザインのアワードで金賞をいただくことができ、自分のキャリアに確実に影響を与えた作品だと言えます。
自主制作から始まったものですが、ここまで進展させることができたのは、様々な方々の助けがあったのと、マーケティング部門への売り込みや海外賞への出品など、自分が前向きに動き続けたからだと分析しています。そして大変な時もその自分を動かす原動力になったのは、自分の興味をかたちにしてみたいという好奇心です。
自然と好きになったり、興味を持つものというのは今後も大切にしたいなと思います。