アメリカに住んで仕事をするようになって、言語や文化、常識や感覚の違いに驚かされてきましたが(その違いこそが興味深いのですが!)今日は美しいと感じる感覚の違いについて考えたことを書いてみようと思います。
アメリカと日本はどうしてこんなにもすべてが違うんだ!と感じる理由はたくさんあるのですが、その一つに、単位の違いがあります。パウンド、オンス、フィート、ヤード、インチ、マイル、華氏などの、重さや長さ、速さ、温度といった日常生活に必要なありとあらゆる単位が異なるので混乱します。そしていつまで経ってもなかなか使い慣れません。笑 今朝もスマホを見て「32°!?冬なのに!?」と、一瞬、見間違えたり。ちなみに、華氏32°は摂氏だと0°です。
それから、書類に使われる用紙のサイズも異なります。日本ではA4の用紙ですが、アメリカではレターサイズという大きさです。これは、同じような大きさですが縦横の比率が異なります。なぜ近しいサイズなのに、規格が微妙に違うんだろうと思っていろいろと調べていくうちにいろんな事に気づいたのでそれをシェアしたいと思います。この記事では、欧米と日本における美的感覚の違いを縦横の比率の観点から見ていきたいと思います。
ご存知の方も多いと思いますが、黄金比はミロのビーナスやモナリザの絵画にも見られる1:1.618(約5:8)の比率のことです。花びらの並び方や巻き貝の螺旋形状をはじめ、台風の渦なども自然界にも多く黄金比が潜んでいると言われています。アップルやツイッターのマークも黄金比が用いられていますね。一方で、白銀比という言葉はあまり聞き慣れないかもしれませんが、この白銀比は、1:1.414(約5:7)の比率のことで、実は日本人にとって非常に身近な比率なのです。新聞の見開き、ポスター、A4コピー用紙、文庫本やマンガなどのサイズの比率、建築物では法隆寺やスカイツリーにも応用されています。またドラえもんやキティちゃん、トトロなど有名なキャラクターの多くが白銀比に近い比率になっています。知らない間にいつも見たり触れたりしていることもあって、現代の日本人の多くは白銀比のこの比率を美しいと感じたり安心感や親近感を抱いたりするようです。
一方、これは個人の見解ですが、アメリカを代表するキャラクターのミッキーマウスは年代によって少しずつイラストのタッチにも変化がありますが、おおよそ黄金比に近い比率で描かれています。(これは公式の見解ではありません。)
ミッキーマウスはどちらかと言えばすらっとしていて、ドラえもんは丸っこい印象。比較すると、黄金比で描かれているミッキーマウスのほうがスマートで、ドラえもんはふんわりとして可愛いく感じられます。この二つの比較は実に興味深いです。日本ではクールでカッティングエッジなものよりは柔らかく親しみやすい方が受け入れられやすい傾向があるのではないかと思います。
ちなみに資生堂には資生堂書体という100年以上前にデザインされたオリジナルの書体があります。この書体のはねや、はらい、曲線の一つひとつに資生堂の美意識が集積されていると言われていて、入社したデザイナーは必ずこの書体を自分の手で描けるようになるために半年から一年かけて訓練します。そして資生堂の美意識の原点を身につけていきます。実はこの資生堂書体も比率が5:7で白銀比になっています。資生堂の美意識は、日本人の美意識と切っても切り離せないものなのだと再認識しました。
黄金比と白銀比を比べて見ていくと、欧米では縦長のシャープさに美を感じていたのに対し、日本人は白銀比のより正方形に近いものに美を感じていたことがわかります。日本は古来の集団生活の中で”親しみやすい美しさ、柔らかな美しさ”が所属するコミュニティの調和に繋がり、欠かせない要素であったことから、現代の価値観につながっていったのではないかと推察します。
モナリザの顔は黄金比率5:8になっていると言われていますが、白銀比は約5:7で長辺少しだけ短いので、日本人の顔のプロポーションに近いと言えます。それが安心したり、美しいと感じたりする原因になっているのではないかとも分析できます。
人はなぜ美しいと感じるのか。美しいものを見た時の気持ちの高揚はどこからくるのか。美への興味がつきません。葛飾北斎の富士の絵は黄金比が取り入れているとも言われているので、白銀比こそが日本人にとって正解と断言できるものでもないところが、美とは奥が深いなと感じます。
そういえば、最近GUCCIとドラえもん、LOEWEとトトロなど欧米のラグジュアリーブランドと日本のアニメのコラボが流行っていますが、これも何か白銀比の魅力が関わっているかもしれませんね。