ニューヨーカーはとってもビール好きで、ビール文化や取り巻く環境が日本とは少し違っているなと感じています。日本でも最近はマイクロブルワリーが増えてきていて現在では全国で500箇所ほどあるそうですが、アメリカでは約10,000ほど、ニューヨーク州では440以上のマイクロブルワリーがあるそうです。アメリカは確かに広いですが、それにしてもすごい数ですよね。(https://newyorkcraftbeer.com/facts/より)
スーパーでは、様々なビールを扱う為に売り場がかなり広く取られていますし、少し郊外に行くとビールしか置いていない酒屋もあります。アメリカのビールはとにかく種類が多いです。
マイクロブルワリーの流行は西海岸からはじまったと言われていますが、実はアメリカ初のマイクロブルワリーは1612年にニューヨークにあったそうです。マイクロブルワリーとはアメリカ全土やグローバルを対象としていない、主にローカルマーケットにフォーカスした中小規模のブルワリーのことを呼んでいます。
僕は昔からビールが好きなのですが、ニューヨークにきてIPAに目覚めてますます好きになりました。魅力的に感じているのはビールの味はもちろんですが、マイクロブルワリーはそれぞれにしっかりとブランドストーリーを持っていてそれがブランディングに反映されているところ。ロゴデザインからそのブルワリーがどんな雰囲気なのかが伝わってきます。
さて、今回は前置きが長くなってしまいましたが、この記事ではWarwickという小さな町の近くにあるDROWNED BREWERYというマイクロブルワリーについて紹介したいと思います。ここは、マンハッタンから車で2時間程度のWarwickという小さな町にあるのですが、実はInstagramで気になるデザインだなと思ってフォローしていました。実際に訪れてみると想像していたよりも素敵な空間で、ビールの味からもブランディング視点からもしっかりとしたフィロソフィを感じました。
コロナ禍の最中、半年前にオープンしたばかりのこのブルワリーは、“豊かな土壌”をテーマにしています。ロゴマークはそのテーマがしっかりと反映されていて、木と川、そして人の手がモチーフになっています。一見、絵本の挿絵のようにも、アートのようにも見える、柔らかなタッチのデザインです。
オーナーのMike Kraai氏はメイン州やバーモント州あたりにブルワリーを持とうと考えていたところ、偶然通りかかったこの場所を見つけて一目惚れし、紆余曲折を経てここに決めたとのこと。1914年にワーウィック州立少年訓練学校として建てられた建物で長い年月空き家だった為に劣化がひどく改装に多くの手間や時間がかかったそうですが、外観の趣はそのままに内装はかなりモダンでスタイリッシュ。
パッケージのデザインも同じように自然を感じさせる柔らかいタッチで、世界観を深めるために缶全体が絵本のようにストーリーが描き込まれているのが新鮮でした。色味もアースカラーで落ち着きのあるものを選んでいるのも徹底されていますよね。
ただ、一点個人的に惜しいなと感じたのが味の種類がパッと見てすぐに分からないところです。たくさんの描き込みがあるので、一瞬でどこに名前が書いてあるのか分からずくるくると缶を回してしまいました。それでさえも、パッケージデザインが美しいので楽しい経験になったので、結果アリなのかなというのも正直な感想です。
ですが、彼らがマスマーケットで勝負しようとした時にハイネケンやバドワイザーとの違いが売り場でパッと求められるようになると、パッケージデザインを通じたコミュニケーションは一変するでしょう。ローカルの人に向けた小規模な展開だからこそ成立するコミュニケーションだと思います。逆にこのような場所でパッケージデザインがバドワイザーのように大衆向けな感じになると、こののどかで、どこかユルさのある雰囲気を壊してしまいますよね。
ブランドの顔となるロゴも、自然の中にある流線を思わせるラインでデザインされています。特にNYの部分は少し象形文字のようにも見えますね。
庭が広く木々の向こうには小川も流れている本当に素晴らしいロケーションにあるブルワリーで、テラスでビールを飲むとこのロゴデザインがマッチしていて、目でも舌でも美味しく感じることができました。
インスタも撮影費用はかけていませんが、アートディレクションのセンスを感じます。いつか自分自身でもこういいったブルワリーのブランディング、デザインをしてみたいと思わせてくれた素晴らしいブルワリーでした!
次回は緑の季節に行ってみたいです。