Branding Brooklyn Breweryのブランディング

2021.8.11

アメリカは多くのクラフトビールがあり、スーパーのビール売り場にも日本とは比べ物にならないくらい数多くの種類が並んでいます。各社、ユニークでポップなパッケージデザインが溢れる中、一際目を引くのがBrooklyn Brewery。まさにビールの顔であるラベルのロゴとカラーリングが強く印象に残ります。デザインを手掛けたのは、あの「I♡NY」をデザインしたミルトン・グレイザー氏。ビールも美味しく普段からよく飲んでいたのですが、先週末ようやくブルワリーを訪れることができました。


Image: mltonglaser.com

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ブルワリーの中の雰囲気

ブルワリーの中の雰囲気

歴史と哲学

Brooklyn Brewery(ブルックリン・ブルワリー)は1988年創業。ブルックリンはもともと製造業とビールの街として非常に栄えていたのですが、財政と共に治安も悪化し犯罪が増加。時代の変化と法改正の影響で当時あったブルワリーの全てが閉鎖されるなど、徐々に街は寂れていってしまったようです。そこで、創業者のスティーブ・ヒンディがブルックリンに活気を取り戻したいという想いで作ったのがこのブルックリン・ブルワリーでした。

当時、ブルックリンにはマフィアも多く、今のオシャレでトレンドが生まれる街とはかけ離れており、ブルワリーの名前に「ブルックリン」を入れることについて、多くの人が賛同しなかったそうです。けれど、スティーブは、ビールを通して異文化を融合させ、人と人を繋いでいくという理念のもと、劇団をはじめアートギャラリーや公園、そしてNPOなどにビールを寄付するなどして、多くの人達が交流できるきっかけを作りました。現在、ブルックリンが様々な人種の人たちが行き交い、新しい流行が生まれる最先端な街になり得たのもこうした彼の功績が大きいのかもしれません。


ブルワリーの入口正面に大きなビアタンクとロゴがゲストを迎え入れてくれます

ブルワリーの入口正面に大きなビアタンクとロゴがゲストを迎え入れてくれます


外壁にはブルックリンらしいアーティスティックなペイント

外壁にはブルックリンらしいアーティスティックなペイント


ベンチやドアまでロゴをうまく活用しています

ベンチやドアまでロゴをうまく活用しています


いたるところにBのロゴが。ここで働くひとたちが、このロゴに誇りを持っていることが伝わってきます。

いたるところにBのロゴが。ここで働くひとたちが、このロゴに誇りを持っていることが伝わってきます。

Brooklyn Breweryのロゴができるまで

創業者のスティーブは、ロゴとアイデンティティを作成するにあたり約三十ものデザイン事務所を検討したのですが、どこもピンとこなかったそうです。そこで、当時すでに巨匠であったミルトン・グレイザー氏に電話したのですが、最初は断られてしまいました。けれど、スティーブは諦めずに電話をし続けようやく会うことができ、ミルトンも彼の情熱と可能性に依頼を受けることになったというエピソードがあります。創業者であるスティーブのデザインとブランディングへの熱意が伝わってきます。また、報酬についても興味深い話があります。まだ会社も小さく予算もなかったので、会社の5%の株式と時給というかたちでデザイン費を支払ったそうです。


打ち合わせをする、創業者のスティーブ・ヒンディ(左)とミルトン・グレイザー(右)Image: Brooklyn Brewery

打ち合わせをする、創業者のスティーブ・ヒンディ(左)とミルトン・グレイザー(右)

Image: Brooklyn Brewery

当初、スティーブが依頼したロゴは当時のブランド名である「Brooklyn Eagle Brewery」でしたが、ミルトンは「Eagle」を削除するように説得したといいます。ミルトンは「ブルックリンを主張しよう、今、ブルックリンを推している人は誰もいない。この街は過小評価されている」と。当時からミルトンもスティーブ同様にブルックリンがこれから魅力的な街になると信じていたのでしょうね。スティーブも納得し、今の「Brooklyn Brewery」が誕生しました。

ミルトンが最初に作った「B」のマークを見た時に、スティーブは思わず「これだけ?」と聞いたそうです。すると、ミルトンは「家に帰って、テーブルに置いて奥さんに見せてごらん」と。その通りにしたところ、すぐさまスティーブの奥さんが気に入り、スティーブも先入観を取り払うことで「B」のシンプルな美しさが浮き立って見えるようになりました。一般的にシンプルなデザインは、整頓されていて清潔に見える反面、サラッと流される個性が薄いデザインになってしまうこともあります。でもこのBのロゴはシンプルながらボールドでとてもユニークだと僕は思います。

また、売上が伸び悩んでいた時にスティーブはホームブルーイングのレシピを応用して新ブランドを作ろうとしました。ネーミングもファミリーネームを使った「Hindy’s Chololate stout」を候補に。ところが、ミルトンは「あなたたちはブルックリン・ブルワリーをまだはじめたばかり。だからブルックリンという名前を使い続けよう。」とアドバイスをしたそうです。売上げがついてこない場合、現状の課題を見つけアップデートするのはブランドにとって必要なことですが、使い続けていくべきブランドの骨子まで変えられてしまうケースは現代でも見られます。そういう意味では、ミルトンはまさにデザイン視点での経営コンサルを行っていたのですね。


飲んだのはRooftop OasisとBrown Ale。どちらも日本のビールよりはホップ強めで味わい深いです。今は、パンデミックの影響で、グラスではなくプラスチックカップですが、それでもロゴをしっかりとプリントして、ブルワリーで飲むビールというこの場所ならではの体験をよりリッチなものにしています。些細なことですが、顧客体験を設計する上で非常に大事なことです。

飲んだのはRooftop OasisとBrown Ale。どちらも日本のビールよりはホップ強めで味わい深いです。今は、パンデミックの影響で、グラスではなくプラスチックカップですが、それでもロゴをしっかりとプリントして、ブルワリーで飲むビールというこの場所ならではの体験をよりリッチなものにしています。些細なことですが、顧客体験を設計する上で非常に大事なことです。

これらのパッケージデザインは、ミルトン・グレイザー氏が手掛けたものではありませんが、ブルックリン・ブルワリーは季節限定パッケージなどデザインの展開と見せ方が非常にうまいと思います。今は夏なので、カラフルでポップで炭酸が喉の奥ではじけるような、ビールを飲みたくなるような楽しげなパッケージを前面に出しています。その他にも、オクトーバーフェスト、ウィンターラガーなど、シーズナルの期間限定商品が売上の多くを占めるマーケットにおいて、ロゴ周りの色やパターンを変更するだけで、その季節感を演出したり、中身のフレーバーを想起させたり、商品コンセプトやターゲットを変えたり、狙いによってさまざまな表情を生み出すことができて、それでいてBrooklyn Breweryというブランドイメージがキープできるのは、そのロゴマークの完成度が高い証拠でもあると思います。

ちなみにこのBrooklyn Breweryのビール、世界初フラッグシップショップ「B」が東京茅場町にあるということなので、日本でも味わうことができるようです。ただ、今はこのパンデミックで休業中なので、リオープンした際はぜひ足を運んでみて良いデザインとビールの美味しさを味わってみてください。

https://www.b-tokyo.info/

Information

MdNデザイナーズファイル2021の装丁デザインをしました。

発売日 :2021-02-24
仕 様 :A4判/272P
ISBN :978-4-295-20099-4
価 格 :本体 3800円(税別)
出版社 :エムディエヌコーポレーション
販 売 :Amazon 楽天ブックス ヨドバシ.com

詳細はMdN BOOKSをご覧ください。