Branding
資生堂のブランディング事例 Vol.2
2021.4.3
今日はパリにあるフレンチレストラン「L’ARCHESTE（ラルケスト）」のブランディングについてご紹介します。このお店のオーナーシェフである伊藤良明さんがつい先日、食のプロフェッショナルについてまとめているPROFESSIONSのインタビューに答えていて、素敵な記事だったのでもしよろしければこちらもご覧ください。記事は<こちら>から。
僕は2015年10月から6ヶ月間、パリの資生堂オフィスでアートディレクターとして勤務していました。その時にちょうど独立して自分のお店の開業を考えていらっしゃるタイミングだった伊藤さんに出会い、お声がけいただきました。
ロゴデザインを考えるにあたり、どんなお店をつくりたいのか、どんな価値を社会に届けたいのかなどの未来のビジョンはもちろん、伊藤さんの生い立ちなどについても伺い、たくさん会話を重ねて行く中でデザインの方向性を絞っていきました。
トレンドの移り変わりが激しい昨今、堂々と王道のフレンチで勝負したいという意図を組んで、芯の強さを感じる太いゴシック体を選択。そして食の未来を作っていくお店なので、クラシックではなくモダンな雰囲気を持たせました。このフォントは新しいレストランをイメージしながら手描きし、そのスケッチからオリジナルの書体を制作しています。
メインのロゴデザインの他にも、ショップカード、名刺、メニューなどのグラフィックツールから、ナイフなどのカトラリーのロゴレイアウト、お店のサイン、フラッグなどの外装についてもディスカッションしながら、デザインしていきました。
新鮮な牡蠣と出汁ジュレが最高な組み合わせの逸品 Photo, L’ARCHESTE
伊藤さんのフレンチ料理は異次元でした。素材の持っている素晴らしさをただ生かすのではなく、調理することでその力を何倍にも引き出している、一皿一皿と向き合いたくなるお料理でした。
伊藤さんとお話をしていく中で、そのクオリティの高さの原点が食材へのこだわりにあるのではと思いました。例えば、最高の食材を安定して調達していくために、パリで一番の魚介類を仕入れている食材店とビジネスを行う上で、まずは自分自身を知ってもらい、信頼関係を築く必要があると考えた結果、実際にその食材店で働いたそうです。そして、双方が納得いくビジネスができる状態になってから、ご自身のレストランをオープンさせたというほど。
それが、最善の策だと分かっていても、なかなか実際に行動を起こすのは難しいことです。その情熱とこれまで培ってきた実力で、フレンチレストラン「L’ARCHESTE」はオープンからわずか半年弱という世界最速でミシュラン一つ星を獲得しました。
美味しいもの、美しいものを通して、食べる人を幸せにしたいという思いがとてもピュアで、僕自身何度か伊藤さんの料理をいただきましたが、言葉では形容しがたい気持ちで満たされて、ひとくち食べただけで、こんなにも幸せな気持ちになるものなのか！というくらい感動しました。人の心を動かすということにおいて、いちクリエイターとして嫉妬してしてしまうほど。ブランディングのプロジェクトが終わった後も何度も伊藤さんの料理を思い出しては、またあの幸福感を味わいたいなあと考えてしまいました。そこで、味わった感動をクリエイターとしてなにか形にしたいと思い立ち、L’ARCHESTEをテーマにビジュアルアートとして表現することにしました。
もともとL’ARCHESTEは、Architect（建築する）に近い意味があるそうで、料理を創造する、感動を生み出すという場所にふさわしいネーミングだと思いました。そこで出される料理もとてもユニークなものが多いので、このL’ARCHESTEのアルファベットを一度バラバラに分解して再構築（アーキテクト）することで、このクリエイティブな場所と体験を彩ることを考えました。カラーは鮮やかなトリコロールカラーを使って、料理が運ばれてきた時、そして食べた時の心躍る感情を表現しました。
このビジュアルはL’ARCHESTEで体験した感動を元に僕が個人的に創作したアートでしたが、伊藤さんに見ていただいたところとても気に入ってくださり、店内に飾っていただけることになりました。
今も大切に飾って頂いているのは嬉しい限りです。Photo, L’ARCHESTE