今日は、先日発表になったニューヨークのONESHOWの受賞作の中から、気になった作品をピックアップして3作品をご紹介したいと思います。

最初の2つは高いクオリティのグラフィックデザインがリブランディングにおいて果たしている役割が大きく、最後の1つはサステイナブルの視点から興味深く感じたのでピックアップしました。

San Francisco Symphony

1つ目はニューヨークとサンフランシスコを拠点とするエージェンシー「Collins」が手がけたサンフランシスコ交響楽団のリブランディングです。こちらは、デザイン部門で金賞を獲得しました。

交響楽団のロゴだけあって、リズミカルな雰囲気をまとったロゴアニメーションが秀逸です。108年もの伝統ある楽団のクラシック音楽を表現すべく、モノクロで堂々としたセリフ体から始まるのですが、それが新しい時代にフィットするように現代的でレスポンシブに形を変えていきます。

ロゴだけではなく、演目のタイトルやポスターで使われるタイポグラフィもこのロジックで構成されていて、その内容や雰囲気に合わせてリズミカルに形を変えていくというのが、フレキシブルでかつ直感的に楽しさや美しさが伝わるデザインだなと感じました。

クラシック音楽はPRの文脈で消費者にうまく伝えるのが苦労する点だったそうですが、このリブランディングにより、モダンに楽しく見えるようになったので、まさにクライアントの課題を見事に解決しているデザインと言えますね。

NORWEGIAN LANDSCAPES

次は、オスロのデザインスタジオ「NEUE」が手がけたノルウェーのパスポートです。こちらも同じくデザイン部門で金賞を受賞しています。

パスポートのデザインとなると、クライアントが国で、多くの国民の手に渡るものなので非常に大きなプロジェクトだと思いますが、中小規模のデザインスタジオが手がけていることに好感が持てます。欧米では大手の広告代理店でなくても、大企業や行政と直接取引をしてブランディングや広告のビッグプロジェクトを手がけることも珍しくないようです。

さて、このプロジェクトはパスポートのリブランディングですが、その目的はID認証や渡航文書のセキュリティ強化にあったようです。しかし一方で、このパスポート自体が、年齢や性別、地域を越えてノルウェー国民全体と強い結びつきを作り、帰属意識を芽生えさせるということも目的のひとつだったそうです。

そこでデザインエレメントとして彼らが注目したのがノルウェーのパノラミックで雄大な大自然。ノルウェーはとても自然が豊かな国で、特に海や川が豊かな漁場や水力発電など様々な恩恵を育んでくれています。その景色を描くことで、国民に誇りと帰属意識を再認識させるという狙いがあったようです。

ビビッドな色使いも目を引き、モダンで美しいパスポートで、いつでも持ち歩きたくなるようなデザインが羨ましいですね。

H&M　Looop

サステイナブルな社会を実現するための取り組みとその見せ方がとてもユニークな事例です。こちらは「AKQAストックホルム」が手がけ、Spatial Design / Experiential & Immersiveで金賞を受賞しました。

現在、なんと87％の洋服が最終的にはゴミになっているというファッション業界の問題に着目し、その問題を解決すべく挑んたプロジェクトです。ストックホルムの店舗で、使われなくなった洋服の生地を繊維に分解して、水や化学物質を使わずにリサイクルするという巨大な装置を、その一連の流れがお客さんにも見えるようにインスタレーションとして展示しました。

洋服という消費財の生産から償却までのプロセスに、まさにトランスフォーメーションしたモデルを提示したと言えるでしょう。アプリと連動して、洋服のデザインや色を選んでその場で古い生地から新しい洋服が生まれる様子を見ることができるそうです。

これがどのくらい世界に波及して消費者や業界に影響を与えたのか、また会社として株価は上がったのか、追随するブランドがあったのか、そこまではこのビデオでは語られていませんが、それでも常に在庫の問題を抱えるファッション業界に一石を投じるキャンペーンになったのではないかと思います。

既存のブランドやモノ・サービスのリブランディングとファッションブランドの新しい挑戦をONESHOWの受賞作という切り口でご紹介しました。変革が求められる時代に合わせるように、新しい姿にダイナミック変貌を遂げたり、企業の志を見える形で魅力的に提示したり。まさにデザインとアイデアの力によって、世界を変える一歩につながる美しい仕事だなと思いました。