Branding 資生堂のブランディング事例 Vol.3

2021.4.7

Vol.1Vol.2に続き、資生堂のブランディング事例について第三回目です。ここまではロゴやマーク、フォントについて見てきましたが、最終回である今回は資生堂がデザインモチーフとして長く使用している唐草模様と、コーポレートカラーでもある資生堂レッドについてご紹介していきます。

唐草模様

唐草模様は別名アラベスクとも言います。古代メソポタミアから発祥して、シルクロードを渡って唐の時代に日本に伝わったと言われる植物の蔦やツルなどをモチーフとした文様のことです。資生堂では1920年頃から使用され、今だにパッケージはもちろん、本社ビルの外観などさまざまな資生堂のデザインに唐草模様が息づいています。唐草模様は、植物が持つ生命力や無限に広がっていく様子を『女性美』と重ね合わせることで、資生堂にとって意味深いデザインのエレメントになっていきました。


1920年頃、化粧品の包装紙として使われていた唐草模様

1920年頃、化粧品の包装紙として使われていた唐草模様


その約100年後の2020年、アメリカで発売されたホリデーボックスを、僕は上記の唐草模様をモダンにアレンジしてリデザインしました。

その約100年後の2020年、アメリカで発売されたホリデーボックスを、僕は上記の唐草模様をモダンにアレンジしてリデザインしました。


新聞広告が主流の時代、唐草模様はすべて手描きで書き起こされていました。女性の髪の毛のラインやシルエットなど、優雅でおおらかな曲線美としても使われました。

新聞広告が主流の時代、唐草模様はすべて手描きで書き起こされていました。女性の髪の毛のラインやシルエットなど、優雅でおおらかな曲線美としても使われました。


限定フレグランスKARAKUSAのパッケージ

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澁谷克彦氏のモダンな唐草デザイン。資生堂銀座ビルエントランス

澁谷克彦氏のモダンな唐草デザイン。資生堂銀座ビルエントランス


銀座の資生堂本社ビルの外観は、唐草をイメージして上へ上へ伸びていくようなイメージでデザインされています。

銀座の資生堂本社ビルの外観は、唐草をイメージして上へ上へ伸びていくようなイメージでデザインされています。

歴代のデザイナーによって、その個性に任され自由に表現され続けてきた唐草。それが時代が経って大きな視点で俯瞰から見てみると、デザイナーの個性を超えて、資生堂の個性になっているという点が非常に興味深いです。先日ご紹介した資生堂フォントもそうですが、繊細で上品でありつつもダイナミックというのが資生堂のデザインの特徴だと私は理解しています。

クラシックなものからモダンなものまで、資生堂のデザインのミーム(企業遺伝子)がまさに引き継がれている好例だと思います。

資生堂レッド

炎や血、ワイン、夕日など赤にはさまざまな事象や意味がありますが、資生堂の赤は生命の赤から来ているのではないかと私は理解しています。生き生きと生物が生きる様を代表する色としての赤、かつ口紅というメーキャップのシンボリックアイテムの代表色でもある赤。これが資生堂レッドの所以です。ロゴなどと同様に100年以上も前から使われつづけているブランドを代表するカラーです。


欧文ロゴや花椿マークに使用されています。

欧文ロゴや花椿マークに使用されています。


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1897年、資生堂初の化粧水オイデルミンはまたの名を赤い水とも呼ばれています。オイデルミンは、化粧水なので無色透明で色をつける必要はなかったにも関わらず、鮮やかな赤をあえて中身色に使うことで、商品を印象的に演出しつつ、かつ資生堂というブランドを鮮烈にイメージづけることに成功しました。その後、パッケージを進化させつつも赤いイメージは踏襲され、今は海外でも販売されています。


資生堂ロゴ、唇、リップスティック。白い肌が鮮やかな赤を引き立てていますが、下の広告のロゴと比べて見てください。

資生堂ロゴ、唇、リップスティック。白い肌が鮮やかな赤を引き立てていますが、下の広告のロゴと比べて見てください。


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同じブランドSHISEIDOですが、ロゴのカラーがより鮮やかになっていることに気がついたでしょうか。同じ赤のように見えますが、資生堂は赤の色を微調整し続けています。バーガンディレッドような少しくすんだ赤が新鮮に見える時代もありましたが、今はもう少し彩度の高い赤の方が時代に合っているという判断のもと、赤がアップデートされました。いつの時代も常に新鮮で新しい存在であるための努力を惜しむことなくやっています。赤がオレンジやピンクにはならず、あくまで赤というカラーの範疇のままで微調整されることでブランドのイメージはキープしています。

さて、3回に渡り、資生堂150年に渡るデザインの歴史を紐解きながら、ブランディングについてご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。

結論としては、資生堂のロゴも花椿マークも、赤という色も、唐草模様もすべてブランドを象徴するデザインエレメントだと一度決めたのなら、あとは実直にずっと使い続けているということが極めて重要な選択だったのではないかと思います。資生堂の場合はそれを100年以上の間続けています。ブレがない姿勢は、ブランドに共感するファンを作っていくためにとても必要なことですよね。

僕は一番最初にブランディングでロゴをデザインする時、カラーを決める時、フォントを作る時は、そのブランドがある限りずっと使われ続ける覚悟でデザインしています。

一方で、資生堂の歴史を振り返ってみると、時代時代に合わせてアップデートを重ねることでいつでも新しく新鮮に、かつモダンに見えるようにリデザインされています。このような緻密な視覚調整やデザインのアップデートの積み重ねが、時が経ってもブランドをクラシックな雰囲気に見せず、特にファッションやビューティの業界は時代の最先端に見せることが大事な要素でもあるので、必要な作業になってくると思います。大きなアップデートが必要だという判断がある時も、ブランドの魂を忘れずにいることが必要になってくると思います。

Information

MdNデザイナーズファイル2021の装丁デザインをしました。

発売日 :2021-02-24
仕 様 :A4判/272P
ISBN :978-4-295-20099-4
価 格 :本体 3800円(税別)
出版社 :エムディエヌコーポレーション
販 売 :Amazon 楽天ブックス ヨドバシ.com

詳細はMdN BOOKSをご覧ください。